先日の猛烈な台風で、
私の電動自転車キャサリン号が、泥だらけになった。
というか、塩でベトベト。
舐めてみると、ものすごく塩辛い。
ここは、海岸まで1時間かかる、「丘の横浜」のはずだけど、
地球規模では「海のそば」らしい。
さすがに、このままでは乗れない。
やれやれ、と、
濡らしたボロ布でベトベトを拭き始めた。
ホイールの骨組みのスキマとか、思うように手が入らず、
なかなか、難易度が高い。
思ったより、根気と時間がかかる。
自転車を拭くのって、こんなに面倒だったっけ?
悪戦苦闘していたら、ふと、
実家の自転車がピカピカだった頃の思い出が蘇ってきた。
東京から実家がある島に帰ると、
いつもピカピカに磨かれた自転車が置いてあった。
タイヤの空気も満タン。
父が手入れをする自転車は、かなり年季が入っている筈なのに、
スイスイと乗り心地が良かった。
その自転車に乗って、
親友の家に遊びに行くのが、
20代の頃の、帰省の楽しみだった。
『ちえこが帰ってくるけん、自転車磨いたとぞー。』
父はいつも自慢気だった。
オイルを染み込ませたボロ布で丁寧に磨いて、
チェーンに油をさし、
ペダルをくるくると回して点検するさまは、
まるで自転車整備工みたいだった。
一年に一度しか帰省しない娘の帰りを、
父は、そうやって楽しみに待っていたのだと思う。
やがて、母の介護が始まり、
自転車は介護用品の買い出しに活躍した。
母が運ばれた病院に駆けつける時はいつも、
全速力で漕いだ。
数年の後、
父も認知症になった。
誰にもメンテナンスされなくなった自転車は、
サビだらけになり、
いっきに老け込んだ。
まるで、老いていく父と呼吸を合わせるかのように。
それでも、しばらくの間、
自転車は、帰省した私の大事な足だった。
実家に着くと、
土ぼこりとクモの巣だらけの倉庫から、
その老いた自転車を、引っ張り出す。
あらかたの汚れを払い落として乗ってみると、
タイヤの空気が完全に抜けきっていたりする。
・・・ため息。
そこまでションボリしなくてもいいじゃない・・・。
たかが、自転車じゃないか。
頑張れ、ワタシ!
と自分をはげましてみる。
だけど、
誰もいないひっそりと静まり返った実家で、
たった一人でボロボロの自転車に向かい合っていると、
どうしようもなく哀しい気持ちになった。
でも、へこんでる時間は、ない。
ブレーキをかけるたびに、
キィーッと音をたてる自転車に乗って、
父が運ばれた病院に向かった。
・・・・・・・・・・
今、塩でベトベトの自転車を拭いていたら、
そんな遠距離介護で必死だった頃の風景が、
よみがえってきた。
父がまだ元気だった頃の、
ピカピカに磨かれた自転車が、
とてつもなく懐かしい。
あの頃は当たり前すぎて、
『ありがとう』を言ったのかさえ、覚えていない。
亡くなってからのほうが、
より鮮明に、愛おしく思える事もある。
今、父がいたら、
ベトベトになった私の電チャリをみて、なんて言うだろう?
あの頃のように、ピカピカに磨いてくれるだろうか?
「ちえこが帰ってくるけん、磨いたとぞー」
ケタケタと笑ってドヤ顔で自慢する父に、
また、逢いたい。
Chie
遠距離介護でも大丈夫!
なんとかなりますよo(*゚▽゚*)o
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